Page 19 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 通常モードに戻る ┃ INDEX ┃ ≪前へ │ 次へ≫ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ ▼電子レンジで水があたたまる本当の理由 高橋 08/6/2(月) 17:38 ┗Re:電子レンジで水があたたまる本当の理由 Fujita 08/6/3(火) 18:53 ┗Re:電子レンジで水があたたまる本当の理由 高橋 08/6/4(水) 11:23 ┗Re:電子レンジで水があたたまる本当の理由 Fujita 08/6/4(水) 13:57 ┗Re:電子レンジで水があたたまる本当の理由 高橋 08/6/5(木) 13:13 ┗Re:電子レンジで水があたたまる本当の理由 Fujita 08/6/5(木) 15:15 ─────────────────────────────────────── ■題名 : 電子レンジで水があたたまる本当の理由 ■名前 : 高橋 ■日付 : 08/6/2(月) 17:38 -------------------------------------------------------------------------
No1,No2とも興味深く読ませていただいています。特に両号に掲載の東京タワーの アンテナについての詳細な記事はなかなか他では見られない内容で参考になり ました。 さて今回No.2で気になって仕方がない記事がありました。「電波のお話」の中で 電子レンジの原理についてかかれている箇所です。インターネット上によく見かける説明はほとんど間違いであり、正確には「誘導電流によるジュール熱」で食品が加熱されるとのことでした。身近な家電の電子レンジですが、原理となると以外とわかりません。私も一応電気系のエンジニアですが、誘導電流というのは金属だけに生ずるものと思っていましたので、水に「誘導電流が流れる」というのは以外でした。 そこで改めてインターネットで調べてみますと、確かに諸説いろいろですが、水が誘導電流によるジュール熱で加熱されるという記事は一つも見つけることができませんでした。 高周波加熱には誘導加熱方式と誘電加熱方式の2種類があり、 誘導方式は主として金属などに変化する磁界をかけることで誘導電流を発生さ せそのジュール熱で加熱し、誘電加熱方式は、主として絶縁体に電界をかけ内 部の電気双極子を回転させそれに伴う損失で加熱するのが原理のようです。 このうち電子レンジで使用されるのは誘電加熱方式で、電界変化による水分子( 電気双極子)の応答に位相遅れが生じ、それが損失として熱を発生させるという 説明がされています。 どちらが正しい説明なのか教えてください。 |
ご質問,ありがとうございます。 「高周波加熱には誘導加熱方式と誘電加熱方式の2種類」というのは, ある現象を強調して見た場合の表現で,それはそれで正しいと思います。 もし,「電子レンジは誘電加熱」だけとすると金属が温まるのを説明で きません。また,海苔や紙が焦げるのを説明できません(液体の水が温ま るだけとすれば紙は絶対に焦げません)。誘導加熱にも磁気誘導と電気誘 導があり,電磁調理器はコイルの直近におかれた金属への磁気誘導を利 用しているといいます。しかし,交流の電気と磁気(電界と磁界)は分離 することができません(単独では存在できない)。電磁波として考えれば コイルはアンテナであり,アンテナ直近(波長に比べて距離が短い)の電 磁界は磁界が支配的なので(磁気)誘導加熱と称していることになります。 長い説明になってしまいわかりにくいかもしれませんが,当該コラム でジュール熱を強調したのは,水だから温まる(金属でも温まるのに), 水が双極子構造だから温まる(双極子でない誘電体も温まるのに),回転 する分子間の摩擦熱で温まる(摩擦熱は明らかに変),といった間違った (あるいは誤解を生みやすい)表現を直したいという気持ちが強く出てし まったからです。物理現象は見る方向によって原理が異なって見える場 合があります。あるいは,異なる原理で説明した方が分かりやすいとい った方がよいかもしれません。電子レンジの場合は,「誘導電流とジュ ール熱」とした方が統一的な説明になると思います。けっして誘電加熱 という言葉を否定するものではありません。 |
執筆者から直々の返信ありがとうございます。 いままで家にある電子レンジの原理についてここまで考えたことがありませんが ますますわからなくなってきました。 家にある電子レンジで紙が焦げたり、金属そのものが熱くなるとは 知りませんでした。金属は表面で反射してしまうため加熱できないと 思っていましたし、また紙自体に誘導電流が流れるというのはイメージ できません。 確かに分子間の摩擦で熱が発生するという説明には無理があるというのは私も 同意します。「摩擦」というより「衝突」という方が良いように思います。 しかし言葉だけでは限界があります。「誘導電流によるジュール熱」の根拠となる 何らかの実験結果、論文などありましたら教えていただけませんでしょうか。 例えば最初の投稿に添付した参考資料のようなシミュレーション結果など があるとわかりやすいと思います。これには純水、塩水、氷のマイクロ波加熱 の分子モデルによるシミュレーション例が載っています。 ご面倒をおかけしますがよろしくお願いいたします。 |
長くなりますが,以下のような説明ではどうでしょう。 電波は電界と磁界の相互作用によって進行する波動です。 したがって,電波が物質に当たったときに物質に与えられる 作用は,1.電界によって電荷を動かす,2.磁界によって磁気 双極子を動かす(向きを変える),のいずれかです。 磁極の向きが変化するときにも損失(ヒステリシス損)が発 生しますが,電子レンジでの加熱にはほとんど寄与しないの で省略します。また,周波数の高い電磁波(X線やγ線など, もはや電波ではありませんが)は粒子の性質が強く出て電界・ 磁界だけでは説明しにくいですが,これも電子レンジと関係 ないので省略します。 一方,ジュール熱は,電気抵抗を持つ物質に電流が流れる と電流の大きさ(A)の二乗×電気抵抗の大きさ(Ω)×電流の 流れる時間(s)の熱量(J)が発生するというものです。一般 には1秒間の熱量として,I^2×R=Wと表現しています。 電流というのは電荷の動きであり,具体的には電荷を運ぶ もの(キャリア:電子(負電荷),陽子(正電荷),イオン(正あ るいは負電荷))の移動ということです。電流の大きさは単位 電荷×キャリアの数×キャリアの速度に比例します。キャリ アの動くのをじゃまするものが電気抵抗です。 ということで,電気双極子が動くのも自由電子が動くのも 電流が流れることに他なりません。添付していただいた資料 のシミュレーションでは分子を動かしていることになってい ますが,電荷を動かしているのと同義です。 電荷の動き(電流)とそれに対する抵抗と考えれば,ジュー ル熱という表現の方が統一がとれてよいと思います。もちろ ん,でなければならないということではなく,特有の名称で 呼ぶのを否定するものではありません。 ちなみに,コンデンサでも高周波電界を加えると誘電損失 が発生しますが,誘電損失は静電容量と直列(あるいは並列) 抵抗で等価できますので,ジュール熱といった方が(電気技 術者には)分かりやすいと思います。 |
早速の返信ありがとうございました。 おかげさまで大分みえてきました。 熱の発生をジュール熱(I^2 X R)で統一的に説明したいという 熱意を感じました。概略下記のように理解しました。 家庭用の電子レンジでは、金属以外の誘電体(水を含む)を 加熱するようになっていますので誘電体を前提で考えてみます。 誘電体にマイクロ波を照射することは、誘電体に電極を取り付けて マイクロ波より周波数の低い高周波電圧を印加するのと等価と 考えるとわかりやすいように思います(すなわちコンデンサ形成)。 コンデンサにAC電圧を印加すると、電界の時間変化 X 誘電率 に比例した変位電流が流れます。従って理想的には変位電流は 電界と90度位相差をもちますから電力ロスは発生せず熱もでません。 しかし実際には説明いただいたように誘電損失があるため電力ロスが 生じこれが熱となります。 等価回路としては誘電損失による抵抗分をコンデンサに入る直列 抵抗と考えるとFujitaさんのいう「誘導電流」はこの場合、コンデンサの 変位電流 X 誘電損失(tan δ)に相当すると思われます。 この電界と同相となる電流分と誘電損失による抵抗により発生する のがジュール熱ということになります。 最初は水に含まれる電解質(イオン)による電流を「誘導電流」と 考えればよいかと思いましたが、水以外の誘電体に適用できないため 上記の考え方に改めました。このような理解でよろしいでしょうか。 インターネット上でみますと、電子レンジの動作原理の説明としては 「水分子=電気双極子の振動による摩擦熱」が熱の発生原理 として定番になっているようです。 マクロな世界の「摩擦」現象を、ミクロな分子レベルにそのまま 適用し、あたかもそれが正しい科学的事実かのように説明されている 事に驚きました。 一方でFujitaさんのように「分子間の摩擦」というのは間違った説明 だと指摘されている方も何人かおられるようで、ぜひ全体が正しい方向に 修正されるようがんばっていただきたいと思います。 今回辛抱強くおつきあいいただきありがとうございました。 おかげさまで久しぶりに身近なところで起きている科学現象について じっくり考える機会をもつことができました。 |
趣旨をご理解いただき,ありがとうございます。 ただ,水や紙などの誘電体に電波が当たると実際に 電荷が移動しますので,真空中でも存在する変位電流 とは概念が少し異なるかと思います。 変位電流は電波として誘電体を突き抜け,電荷の移 動による電流が損失につながると考えた方が実情にあ っているように思います。この辺のことを数式で説明 できるとよいのですが,私には残念ながらそこまでの 知識がありません。 それはさておき,科学的興味を持っていただく方が 増えるのは喜ばしい限りです。今後ともRFワールド をご愛読願えれば幸いです。 |